2020年にサービスを開始した楽天モバイルは、通信業界というレッドオーシャンに飛び込んで苦労しながらも少しずつシェアを伸ばしています。
私も以前は数年間楽天モバイルに加入していた一人で、低価格の恩恵を受けながらシェアを伸ばすのを横目で見ていました。仕事の理由により他のキャリアへ機種変更せざるを得なかったのですが、その後も常に楽天モバイルの新機種や事業の発展は見続けてきました。
今回はそんな私がマーケティングと経営の視点から、楽天モバイルが実践した戦略や実行プロセスについて、後発参入でも成功を目指せるマーケティング戦略としてお話ししていきます。
後発キャリアとして市場に参入した楽天モバイルは、国内大手3社とは一線を画す独自のマーケティング戦略を打ち出し、成長を遂げています。
特に「楽天エコシステムとの連携」「データドリブンな施策」「革新的な料金プラン」「エリア拡大と品質向上」「SNS活用による顧客エンゲージメント」という5つの柱が、その原動力です。
その1つずつについて見ていきます。

①楽天エコシステムとの連携
楽天モバイルは、楽天市場や楽天カード、楽天ポイントなど、グループが培ってきたサービスとの相乗効果を生み出して最大化させています。ここが楽天が勝算あると見込んだ大きなポイントです。
例えば、モバイル契約者に対する楽天スーパーポイント還元キャンペーンを頻繁に実施し、「通信利用でポイントが貯まる」「貯まったポイントをネットショッピングに使える」といった利便性を訴求するのです。
このようにすることで楽天経済圏への誘引効果が生まれ、顧客のLTV(顧客生涯価値)向上につながっています。
また、楽天カード支払いとモバイル料金支払いのセット割引、楽天証券との連携によるポイント投資促進など、楽天グループ内での相互のプロモーションが活発になっています。
これらの施策は他社が真似しにくい点でも、楽天の強固なエコシステム構築の基盤となっています。

② データドリブンなマーケティング
楽天グループ全体で蓄積された膨大な顧客データを活用し、1人1人にパーソナライズされたマーケティング施策を展開しています。購買履歴、検索ログ、モバイル利用状況などを組み合わせたセグメント分析により、個別に最適な通信プランやキャンペーンを進めています。
たとえば「動画視聴が多いユーザーにはデータ使い放題プランの無料トライアルを提案」「旅行シーズン前には海外ローミングオプションの割引クーポンを配信」といったように1人1人に合わせてタイムリーなアプローチをしています。
これによって顧客満足度と解約率低減を両立しています。
さらに、機械学習モデルを利用した予測によって解約リスクの高いユーザーを早期に察知して、専用オファーを提示する「先回りリテンション」も行っており、これも高い効果を生んでいます。

③ 革新的な料金プランとサービス
楽天モバイルが市場で注目を浴びた大きな要因のひとつが、従来の“従量課金+無料通話”という枠組みを打ち破る、真の「データ使い放題」プランの提供です。月額3,278円(税込)で国内データ使い放題かつ、楽天リンクアプリを使った通話が無料という魅力的なオファーは、通信コストを重視する個人・法人ユーザーの心を掴みました。
また、楽天ポイントと連携した「ポイント還元プラン」や、家族割・学割による月額割引、学生向け特典など、多様なニーズに対応する柔軟な料金体系を整備しました。
これにより、料金競争だけでなく、顧客セグメントごとの最適化を実現しています。

④ エリア拡大と品質向上
後発キャリアゆえに、ネットワーク品質への不安を抱えるユーザーも少なくありませんでした。楽天モバイルはこれを払拭すべく、基地局の急速な整備とローミングサービスの併用を推進しました。
2020年のサービス開始以降、全国主要都市を中心に基地局を増設し、90%以上のエリアをカバーしています。
さらに、既存大手キャリアのネットワークを利用するローミング機能を無料で提供し、カバーエリアと通信安定性を強化しました。
最近では、Open RAN(仮想化基地局)や5G SA(スタンドアロン)方式の導入にも積極投資し、将来的なネットワーク拡張や新サービス展開に向けた土台を築いています。

⑤ SNSを活用した顧客エンゲージメント
Twitter(現在はX)やInstagram、YouTubeなどのSNSプラットフォームを活用し、顧客との双方向コミュニケーションを強化しています。Twitter(X)公式アカウントでは、他キャリアのキャンペーンへのユーモラスな言及や、サポート対応の迅速さをアピールするなど“コミュニケーションのチャンネル”として効果的に運用しています。

また、ライブ配信による社長やエンジニアとの対話セッション、公式アンバサダープログラムの設立など、ファンづくりに資する取り組みを多数実施していました。
ユーザーコミュニティを通じてブランドのファンが根付かせる環境を作り、少しずつ大きくすることで規模を広げてさらに新たな加入者を呼び込むことに成功しています。

まとめ
このように後発キャリアとして市場に挑んだ楽天モバイルは、「独自のエコシステム」「データ活用」「料金の大胆な差別化」「ネットワーク投資」「SNS運用」という5つの戦略を組み合わせることで、大手3社に迫っています。今後は、IoTやMVNO事業者向けプラットフォーム、さらには法人向けソリューションの強化など、新たな領域への展開が見込まれます。
楽天モバイルの次なる一手にも引き続き注目しつつ、本記事を読んだみなさまのマーケティング戦略を考える一助となれば幸いです。


